『白亜地刻描』解説
芸術論とひとりごと
『白亜地刻描』 解説
私の絵は制作過程のほぼ半分どころで構図が固定されます。
これは白亜地刻描の物質的構造に負うものなので以降構図を動かすことはほぼ不可能です。
ここまではいわば足し算の仕業で、絵の具で加筆する事で進行します。
絵の具で描いて行く過程では、後に削描く事を考慮すれば
厚く絵の具を使うことは出来ず、発色の効き目のあるギリギリの薄さでの着色加筆となります。
そして加筆着色が臨界を迎えた所で仕業の方向は反転を迎えます。
以降は鋭利な刃物で削描く引き算の仕業です。
仕業が反転した画面は削描いた線によって光を帯びる様にだんだん明るさを増して行きます。
絵の完成となるバランスポイントまで削描いて行く中で
画面の物質感は、いわゆる油絵の物質感から独立し
白亜地刻描独自の絵肌(マチエール)に変化していきます。
削描いた線は、削描いていない部分が線に見える様になるところで視覚的な反転を起こします。
これは沢山描いてあるところほど絵の具が厚く重なっている一般絵画の構造の常識を
覆す視覚への裏切りでもあります。
当然ながら削描いた線は一本の細い溝ですから失敗は許されない仕業です。
私の絵の構造は全体的に見れば、彫刻での粘土を足したり引いたりしながら
創り上げる塑像に似ています。
但し、何度も付けたり取ったりするのではなく、後半は失敗の許されない石彫刻の仕業です。
ミケランジェロが大理石を前に「この中に隠れている彫刻を正確に彫り出す」と言っていますが
白亜地刻描では制作の前半の着色加筆の仕業は、各作品専用の大理石を作ることに相当します。
私は仏像彫刻が好きでこれまで色々な傑作を観て来ました。
その中で最も揺るぎない存在感を示す塑像の構造を
石彫刻の緊張感をもって実践する絵画制作法が白亜地刻描です。