【第36話】画材たちのささやき

言葉のスケッチ

先月から制作を一時休止して、いろいろな準備を求心的に進めていた。
そしてようやく準備の仕上げである画材にまで漕ぎつけた。

絵の具や筆や顔料や油、その他の手持ち分に不足が無いか、今一度確認しながら、
各供給元に価格変動、供給状態の長期的な見通しまで問い合わせをしてみる。

画材屋さんに並んだ画材に、変化を感じ取るお客さんは少ないかもしれないが、専門家の立場から見てみれば、中身が変わっていたり、供給がストップする、などと言う事は茶飯事で油断がならない。

それだけに久しぶりに掛ける電話はなかなかスリリングなものとなる。

数軒の画材屋さんやメーカー、原材料屋さんなどにコンタクトしてみると、
案の定、今回も価格の値上げ改定たるや秘密裏に潜行し、実行は速やかなのに驚く。
それでも値上げで済むのはマシな方で、「生産されなくなりました」の声を聞かずに済んだのはありがたい。

さて、リサーチの結果を見て、何をどの程度買い足しておくか決める段取りへと移る。
画材にも、生ものに近い物から、半永久的に保存が利く物までいろいろある。
例えば、油絵の具であれば外気に触れなければ、
20年位は普通にチューブの中で絵の具の状態を保つ。
そんな絵の具でも、顔料の生産停止を耳にしたら(30年、40年後のことを考えれば)絵の具ではなく顔料を買っておく方が賢明かもしれない。

筆では、原料の毛の入手が困難になりつつあれば、先手を打って十分な数量を買い求めておかなければならない。

画材となる原材料達は、全地球的な産地から調達されて加工、そして画材となって店に並んでいる。
済ました顔で陳列棚に並んだ画材達が、「今回の分でお終いだよ、」とか「今後は品質が落ちますよ」とか「次にお会いする時は御高くなってますよ」と囁く声が私には聞こえる様だ。


30年前の絵の具、中身はまだ大丈夫です。

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