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世界唯一の白亜地刻描の画家

東京芸大 入学試験実技

Toyofumi Kaneko | 2016 - 03 - 12

もう30年も前の事なのに毎年今頃になると芸大入試を思い出す。
私は受験する側として3回、受験生を見守る側として3回入学試験の現場に臨んだ。
今日は試験監督官として受験生を見守った学部4年生の時の事を書いてみます。

私が学生だった頃の東京芸大は入試倍率がずば抜けて高い大学でした。
その中でも毎年30倍を超える油画科は最難関なので受験者数も2000名程になります。
現役生から何浪もした学生さん達、芸大入試を年中行事にしている
おじさんおばさん受験生もいます。

試験当日上野の校舎は受験生で溢れかえり、
試験会場を管理運営するために学部、大学院の学生たちが駆り出されます。
各監督官は20名程の受験生を受け持ち
皆自分がそうだった時の事を思い出すのか受験生に対し親切です。

以下が入試当日の様子です。

腕章を付けた監督官たちはそれぞれ自分の担当の試験会場へと散っていく。
会場前に並んだ受験生たちは緊張しきっている。
封印紙が解かれ試験会場のアトリエに入り、
自分の受験票を座席抽選券とともにイーゼルに留める。
セットされたモチーフが在る場合もあれば、無い場合もある、
何か小物が配られることもある。
監督官は振鈴を合図に封筒を開き問題文を2度読み上げ入り口近くの壁に貼る。
全て予め細かく指示された通りに進んでいく。
こうして実技試験は始まる。

出題文を読み上げる瞬間は試験監督官にとっても緊張の瞬間です。
どこかの会場からは奇声が聞こえるし、「わたし描けな~い」
木炭紙を持ってふらーっといなくなる受験生が出たりする事もあった。
大学側からすれば、木炭紙は答案用紙、必ず回収しなければならない。
舞台裏を支えるフロアーチーフ、ブロック長などの大学助手は気が気ではなかったと思う。

一方ほとんどの無事に始まった会場では、カリカリ、シャッシャッ、
鉛筆や木炭が紙を擦る音だけが交差し雑音は一切し無い。
眼を閉じていても、受験生が描く絵が描きあがっていく様子が見えそうな時間が始まる。

芸大の実技試験は、記憶を試される一般大学の入試とは異なり、
緊張やプレッシャー、集中の度合い等で作品の出来上がりが全く違ってくる。
100m10秒で走れる選手は調子が悪い時でも11秒で走れるだろう。
しかし芸大入試では15秒にも20秒にもなって仕舞う。

始まる時と同じ様に振鈴と共に一日目が終わり、試験会場内のチェックが済むと
廊下に並んで待機していた受験生は解散となる。
受験生たちは、素描1の出来がそれぞれ自分でわかっているはずだ。
私は解散の合図と共に廊下に並んだ受験生みんなに聞こえる様に
「諦めたりしないで明日もちゃんと来るんだよー」と声を掛けた。
済んでしまった分はしょうがないから明日またがんばろうねの意味を込めたのだ。

30年前一次試験は、一日で描く素描1、二日間で描く素描2、の計3日間あった。
そして一次試験合格発表の後選抜された受験生は、
二次試験で油絵を描き最終合格発表を迎える。

初日に続き二日目、三日目の素描2もつつが無く進行し、
最終振鈴の音で実技一次試験は全て終了した。
解散の合図を前に廊下に並んだ受験生たちには、今年で終わり、そういう顔や、
疲労しきった顔、すでに来年に向けた決意の表情もある。

「解散」と言った後 「受験票捨てたりしないでねー、ちゃんと取っとくんだよー、
もしもって事もあるからねー」と付け加えた私に担当した受験生たちは
「お疲れ様でした」「ありがとうございました」と挨拶を残し帰って行ったのを思い出す。

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