巨匠との同居生活(経緯)

言葉のスケッチ
私が18歳で上京し通ったS美術学院でカリキュラムが始まって間もなく
先生から言われた事があります。
「巨匠の作品を見て、すごいなー、と思うままではいけない。」
「巨匠は自分と同じだと思ってその作品を観なさい」
当時、絵の良し悪しさえ分からない私にはその言葉の真意は
わかりませんでしたが印象に残ったのを覚えています。
私の方は春から夏になり秋風が吹くようになっても
一生懸命画面に向かうばかりで上手く描けないまま。
それは一日一日で見れば爽やかな敗北でしたが、
そのままではいけないのは自分が一番良く分かっています。
「何か出来ることはないか」
朝から夕方まではS美術学院がある、休日は美術館へ足を運ぶ。
さてあとは、下宿に帰ってからの一寸した時間。
来春の芸大入試を考えてみれば悠長な態度ではいられません。
「そうだ巨匠と同居して絵を教わろう!」
それまでどんな模倣にも抵抗があった私は、巨匠の作品を真似る、
つまり模写をしてみることに決めました。
巨匠との同居は即ち巨匠の画集と暮らすことです。
それから4畳半一間の下宿に、まるで巨匠と同居していると言える様な
大きな画集がやって来たのは3週間後のことでした。