【第1話】アトリエと梅の花

言葉のスケッチ

私のアトリエは千葉県九十九里海岸から2キロ程のところにある。

田や畑の多い平たい土地柄は海からの風を運ぶのに都合が良い。
自宅兼アトリエの住人は私のほかに細君と猫がいる。
アトリエは2階にあるが真夏の日差しは容赦なく屋根を射抜いて
私のところまで届くかの様だ。
実際アトリエの照明は(色温度が太陽光とほぼ同じ)
色の再現性が正しいものを眩しいほど設置してあるので
天井からヒーターをたいているのとあまり変わりないだろう。
真夏の自然の暑さを甘受するこの環境は身体には良いかもしれないが
制作にははなはだ不向きである。
そう云った訳で例年真夏の間は1年分の地塗り作業をすることに決めている。
「白亜地刻描」と命名した私の絵の出来を左右する最も大切な部分の一つである。
とはいえアトリエは散らかり放題にちらかり、
同程度の広さのバルコニーもまた白い粉だらけでやはり少々剣呑には違いない。

大汗かきながらの作業の手を休めて見上げた空に、
ふと郷里の小学校の校庭を思い浮かべた。
時間が止まった様な真夏の昼下がり、楽しくてたまらなかった夏休みの景色は
30年以上経った今も色褪せてはいない。

そんな一日の仕事を終えてアトリエを降りると白い梅の紋が花盛りで私を待っていた。

関連記事一覧