【第29話】

言葉のスケッチ

一昨昨日、郷里から新米が届いた。
もう20年近くもの間、毎年採れたての天草の味を送ってくれるのは叔父である。
例年お米が届いた翌日にはお礼の手紙を添えてお菓子を送っていた。
今年もその様に一昨日郵便局へ向かったばかりである。

そして天草の実家から叔父の訃報を知らされたのは昨日の朝。
叔父は楽しみだったグランドゴルフの最中に倒れたらしい。
心筋梗塞だった。

お米が届いて直ぐに電話をしておけば良かった。
いつも穏やかで仏様の様な叔父の声を聞けたのは勿論
私との電話の影響で翌日の行動が変化しグランドゴルフには出かけなかったかもしれない。

生き物はみな生死に関わる何かが在る時には何がしかの勘が働くはずだ。
しかし今回の私にはそれを感じ取ることが出来なかった。

「何で、、、」 「あの時こうしておけば、、、」
近しい命を亡くしたとき誰もが考える命題がここにある。

思い出されるその瞬間に本当に選択肢はあったのだろうか。
生き物はいつも自由な選択をしている様でいて、
実は全て用意された紐を手繰っているだけなのではあるまいか。

超然たる疑問が現前しいつまで経っても動こうとしない。

今頃は告別式がしめやかに執り行われているはずだ。
私が贈ったお礼の手紙と菓子は急ぎ打った弔電よりも後に届いてしまう。

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