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世界唯一の白亜地刻描の画家

【第12話】ふらりと都内へ・後編

Toyofumi Kaneko | 2010 - 09 - 22

後編(夜の部)

新橋駅銀座口での待ち合わせは午後6時だった。
5分前に到着した私はいつもの様に目敏くI君を、彼からは見つけやすい風貌の僕を
お互同時に人の波のなかに見つけた様だ。
I君は颯爽としたスーツ姿で正しく企業戦士といった印象を与える。
手にした鞄は大きく、実際に会社を動かしている人の大きさだなーと私は感じる。
今日のメンバーは彼の会社のSさんと3人ということである。
個展の際にもお会いしたSさんとの挨拶もそこそこに、
焼き鳥の人気店へ急ぐと運良く席を取ることが出来た。
「パーッと食べて飲んで、次行くからね」
いつもの様にテンポ良く場を仕切るI君の手際の向こうには
ほんの30分前まで仕事をしていた様子が伺われ、
元気を分けてもらっている気がする。

やきとりは美味しい、話は楽しい、満腹になるのも時間が経つのもあっという間だ。
予定通り1時間ちょっとで河岸を変える。

2件目はガラリと雰囲気を変えて静かなピアノバーの扉を開いた。
ダンディーなマスターと素敵なマダム、静かなピアノ演奏と耳に心地良い歌声を披露してくれる歌手の女性、いろいろなアシストをして下さるボーイさん達。
そしてカウンター席の向こうには今宵も静かにバースプーン、シェーカー、を手に
腕を振るうバーテンダーのNさん。
いつもいらっしゃるEさんのお顔が見えないので尋ねるともうすぐ見えるとのことである。安心してお酒のオーダーに入る。

お店は奥に広くゆったりとしたソファー席もあるが、
私はカウンターがお気に入りだ。
毎回I君に連れられて今日で未だ3回目の来店だが
こちらのお店に初めてお邪魔したのは今年の個展の2日目の晩だった。
3件をはしごして辿り着いた時にはかなり酔いも回っていた。
そこで最初にたのんだのが「スピリタス」だった。
カウンターの向こうにたくさん並んだお酒のビンを見ていたら
「ひょっとしたらあるかな」、と思いいたずらに頼んでしまった。
冷凍庫の手前から順に引っ張り出されるジンやウォッカといった強いお酒達の
一番奥から出てきたのは、アルコール度数96度、世界最高度数のウォッカである。
その数字からは想像もつかない繊細な甘みを感じさせるそのお酒は飲むというよりも
舐める、また隣には水を、と言ったお作法を要する。

ゆったりとした時間の流れに沿う様に動くNさんの手際にすっかり魅了された私は
続いてドライマティーニをお願いした。
数分後、スピリタスのとなりにマティーニが並んだ。
Eさんから「スピリタスのチェイサーにマティーニを飲む人初めて見た」と言われてみると、
確かに目の前はその構図になっている。
翌日は見事な二日酔いとなったのだが今日は大丈夫。
一軒目でのお酒はセーブしてある。

そう云った訳で今日もスピリタス→ドライマティーニがオーダーの順路となる。
その後ブラッディーマリー→雪国 と続く頃にはいい按配に酔いも廻って来る。
それぞれに好きなグラスを傾けいろいろな会話を楽しむお客さんたちは
曲が終わると演奏と歌に拍手を贈る。
今宵も本当の贅沢な時間がここには流れている。

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