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世界唯一の白亜地刻描の画家

昔話 18才の春

Toyofumi Kaneko | 2016 - 02 - 20

私の人生のスタートは2回ある。
一つ目は生まれた時、そしてもう一つは郷里を離れ上京した18歳の春。
一つ目はさしたる考えも無く何となくこの世に発生してしまったので
二つ目のスタートは私がこうして画家であるための意思を持ったスタートを切る事にした。

1984年3月31日
上京すると東京豊島区池袋、駅から歩いて数分の所にある我が四畳半は、
未だ荷物が届かず閑としていた。
その晩は大雪が降り南国育ちの私は
「なんて所だ」と震えながら過ごしたのを覚えている。

そしてこれから通うS美術学院が始まるまでは2週間程時間があったので
それまでの間、毎日散歩したりしながら東京の空気に慣れておくことに決めた。

池袋駅は巨大、JR,西武、東武、地下鉄などが乗り入れ
駅上の西武百貨店はそのまま遠近法が勉強できそうな長さで遠くまで伸びている。
歩を別の方角に向ければ数分で閑静な住宅街に辿り着くことが出来るし
そう言った変化を歩きながら感じることが出来て面白かった。

数日経つうちには桜も咲き始めるし頭の中には身の回り地図が出来あがっていく。
桜の綺麗なお寺さんも見つけたし、入ってみたい喫茶店も見つけた。
食料品の安いスーパーも八百屋も見つけた。

街中から南池袋方面に商店街を進み住宅地を抜けるとそこは大きな霊園になっている。
雑司ヶ谷霊園は都心とは思えない静かな空間で
空の広い霊園内を何気なく歩いていると夏目漱石の墓の前に出た。
静かに佇む漱石のお墓には今日も凛とした花が生けられている。

春の風に撫でられながら、未だ独り、都会の真ん中で誰も知らず、
不意に出会った知った名前の墓標に、あの世とこの世を越えて
異郷の地で邦人と出会えた様な気がしたのを思い出す。

今日は秋葉原の電気街を次の日は新宿を、
そんな風に都会の空気を胸いっぱいに吸い込みながら
私は2つ目の人生をスタートさせた。

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