【第19話】彫刻的絵画

言葉のスケッチ

私の絵は単色に塗った画面の中に潜んで正確に彫り出されることを待っている。

実際に作品をご覧になった方は驚かれるが描いた様に見えるところは全て削ってある。
最下層に地塗りした白亜地の削り出し加減で描き進められる全工程は物質的には
0.5ミリに満たない厚さのなかに作られる削りの抑揚で出来上がって行く。

私の作品は構造面から考えると絵よりも石彫刻に近いのかもしれない。。
また技法の性質上、絵の具を塗り重ねて行く描き方と異なり失敗は許されない。
ゆえに細心の注意を払った制作となるが思わぬところで伏兵にやられ
玉砕の一日となることもある。
そして今日はそんな日だった。
以下その瞬間からのあらすじである。

失敗と判断が下る。
    ↓
ハンマー投げの投てきさながらに喚く(ハンマーの代わりに眠っていた猫が飛んで逃げる)
    ↓
大声を出したのをきっかけに気分にリセットがかかる。
    ↓
直ぐにアトリエをかけおり冷蔵庫に見つけた羊羹に噛り付く。
番茶でそいつを流し込んで脳に効き目が表われるのをアトリエの床に行き倒れて待つ。
    ↓
自分のいびきで目が覚めると時計の針が30分ほど進み二日目の今日を迎える。
それからはぢーっと画面を睨みつけたまま明日の方針が浮かび上がるのを待つ。
(起死回生の一手が見つかることもあれば画面を新たに次の制作を読みきるための時間となることもある)

目の前に大きな石があるとする。
彫刻家を10人呼んでその石の中に隠れた最高の彫刻を彫り出させれば
10通りの彫刻が彫りあがる。
石の中には10個の作品があらかじめ潜んでいたことになる。

難しいのは正確に各自の最高彫刻に辿り着くことである。

その最高に辿り着くために振るわれるノミの一振り一振りが日々の在り方と言えよう。
疲労困憊でアトリエを降りながらそう考えた。

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